アンドロイド・ニューワールドⅡ
「…そういうことは、良くないと思います」

と、私は静かに言いました。

私がここで電話を切れば、その時点で私が詐欺に引っ掛かることはありません。

しかしこの詐欺師は、私への詐欺が失敗したとなれば。

きっと、今度は他の人物にオレオレ詐欺を敢行することでしょう。

その別の人物が、私のように詐欺を看破し、この手口に引っ掛からない保証はありません。

もしかしたら、詐欺師の手管に丸め込まれ、大金を振り込まされるか。

あるいは、高額な壺や味噌を買わされてしまうかもしれません。

それは、あまりにも気の毒です。

しかし、もしここで私が、この詐欺師に詐欺をやめるよう説得出来たならば。

この詐欺師は、犯罪をやめ、真っ当な道に戻り。

そして、この詐欺師の被害者になっていたかもしれない人物を、救うことが出来ます。

詐欺師のことも、他人のことも思いやる。

私も、なかなか人間の感情に寄り添った『新世界アンドロイド』になってきた、と言っても過言ではありませんね。

そこで、私はこの詐欺師と話をしてみることにしました。

勿論、自首を勧める説得です。

「このようなことをして稼いで、あなたは何を得るのですか?他人を騙して味噌を売りつけて、あなたはいくらマージンをもらえるのですか」

と、私は尋ねました。

自分がいかに愚かなことをしているか、自覚させることが説得の第一歩です。

『え、えーと…?』

と、詐欺師は呟きました。

どうやら、困惑しているようです。

すぐに電話を切らない辺り、彼ももしかしたら、足を洗うきっかけが欲しかったのかもしれません。

ならば、私が後押ししてあげる必要がありますね。

「このような手段で金儲けをするのは、もうやめましょう。真っ当に生きましょう。大丈夫、生まれながらの悪人など、この世にはいません。人が悪に染まるのではない。悪が、人を染めるのです。あなたは、必ず更生出来ます」

『…』

と、詐欺師は無言でした。

私の説得に、心を揺り動かされたのかもしれません。

良い傾向です。

「さぁ、今すぐ警察に自首しましょう。そして、これまであなたが、高額な味噌を売りつけてしまった人に謝罪し、罪を償いましょう。あなたは人生をやり直せるのです。自暴自棄になってはいけません」

『…うん、あのさ』

「はい、何でしょう?」

『…俺、詐欺師ではないんだけど』

「…はい?」

と、私は尋ね返しました。
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