アンドロイド・ニューワールドⅡ
「それをあんた達が、メニューはたくさんじゃないとつまらないとか言って、無理矢理増やしたんじゃない」

と、ホール係の女子生徒は言いました。

メニュー決めに、そのような経緯があったとは。

それは初めて知りました。

話し合いに参加すらさせてもらえなかったので、知る由もないのですが。

「案の定てんてこ舞いになって、あんたがおたおたしてるところを、久露花さん達が手伝いに来てくれたんでしょ?それを感謝もせずに、責めるとか…。クラス委員長様が聞いて呆れるわ」

「何ですって…!?」

と、湯野さんは、こめかみに血管を浮き立たせながら言いました。

不味いですね。

何だか、喧嘩がヒートアップしそうです。

このクラスの生徒達は、血気盛んですね。

何かと言えば、すぐに揉め事が起きます。

若者の集まりですから、血気盛んなのは、仕方がないとも言えますが。

だからといって、お互いに相争うのは良くないと、私は思います。

同じクラスの仲間なのですから、やはり仲良くするに越したことはありません。

現状、喧嘩していることの方が、多いように見えますが。

それともこれは、喧嘩するほど仲が良い、というものなのでしょうか。

ともあれ。

「どうどう。落ち着きましょう、皆さん。どうどう」

と、私は言いました。

若者らしく喧嘩をするのは、良いことなのかもしれませんが…。

しかし、この場で喧嘩をするのは、良くないと思います。

やるならちゃんと、夕日の差す浜辺をバックに、素手で殴り合わなければ。

このように、教室で行うのは良くないでしょう。

しかも、少数とは言えど、まだお客さんも残っていることですし。

このようなところで殴り合っては、お客さんに見られたら、さぞ驚かれることでしょう。

「何よあんた。馬鹿にしてるの?」

と、湯野さんはこちらを睨んで言いました。

馬鹿にしてなどいません。

「先程も言った通り、我々はもう戻ります。これ以上の手出しはしません」

「最初からそうして欲しかったわね。偉そうにしゃしゃり出ないで」

「そうですか。なら、私としても、最初からきちんとホール係だけで、お客さんを捌いて欲しかったですね」

と、私は言いました。

あら?何だか、自分で思っていた以上に、棘のある言い方になってしまった気がします。

もしかして、知らず知らずのうちに、私も苛立っているのでしょうか。

これが怒りという感情なのですね。不思議な感覚です。

それはともかく。

「では失礼します。戻りましょう、奏さん」

「う、うん…」

と、奏さんは釈然としないながらも、頷きました。

湯野さんは、まだ何か言いたそうでしたし。

ホール係の女子生徒も、憮然とした様子でしたが。

私は全てを見なかったことにしました。

見なかったことにして、奏さんの車椅子を押し、隣の空き教室に戻りました。

これで、湯野さんの怒りが、少しは収まると良いのですが。
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