アンドロイド・ニューワールドⅡ
空き教室に戻ってから。

「ふぅ。何だか、とても険悪な雰囲気でしたね」

「…」

「さぁ、そろそろ私達の本業、お金の計算を始めましょう。折角、売り上げ金を回収したところですし」

と、私は言いました。

そして、ビニール袋をテーブルの上に開き。

袋いっぱいに詰まったお札と小銭を、テーブルの上に並べました。

これを、一つ一つ数えていけば良いのですよね。

すると。

「瑠璃華さん…」

と、奏さんは私を呼びました。

「はい、何でしょうか?」

「瑠璃華さん、あんなに簡単に引き下がっちゃって…。もっと怒っても良かったのに」

と、奏さんは不満そうに言いました。

怒る?私が?

それは難しいことを仰いますね。

「何に怒るのですか?」

「さっきのことだよ…。湯野さんのあれ、完全に八つ当たりじゃん」

と、奏さんは言いました。

あれは、湯野さんの八つ当たりだったのですね。

「自分が調子に乗ってメニューを多くして、そのせいでキッチンもホールも回らなくなって…。その責任は湯野さんにあるのに」

「…」

「瑠璃華さんが手伝ってくれたから、何とかあの場を切り抜けられたんだ。それを感謝しようともせず、出しゃばりって責めるなんて。面の皮が厚いにも程がある」

と、奏さんは苛立ち紛れに言いました。

そうですか。

確かにあの方は、面の皮が幾層にも重なっていそうですね。

2、3枚引っ剥がしたくらいでは、まだまだピンピンしているでしょう。

玉ねぎみたいですね。

「瑠璃華さんは、もっと堂々と…。湯野さんを怒っても良かったんだ。その権利がある」

「…そうですか」

と、私は言いました。

「何で怒らなかったの?」

「いえ、確かに私は、怒りという感情を学習していますが。しかし、あの場で怒るのは得策ではないでしょう」

と、私は言いました。

湯野さんの性格からして、私がいくら言い返しても、絶対に自分の非を認めないのは明らかですし。

そんな無駄なことをしている暇があったら、次のお客さんの為に、メニューの作り置きでもしていた方が、時間を有効的に使えます。

私も、お金の計算が控えていましたしね。

もう過ぎ去ったことで、時間を無駄にしたくはありませんでした。

それに。

「手伝ったからといって、特別恩着せがましくしたくはありません。困っているときはお互い様だと、久露花局長から教わりました」

「…」

「その結果湯野さんを怒らせたのだとしても、勝手に怒らせておけば良いです。大事なのは、あのときあの混沌とした店を手助けすることで、湯野さんのご機嫌取りをすることではありません」

と、私は言いました。

要するに、何が言いたいかといいますと。

怒りたいなら、勝手に怒らせておけば良い、ということです。

湯野さんの感情など、私の知ったことではありません。

私は、自分に出来ることをしただけですから。

「…瑠璃華さんは、お人好し過ぎだよ」

と、奏さんは溜め息混じりに言いました。

「そうでしょうか?」

「そうだよ」

と、奏さんは言いました。

「駄目ですか?」

「いいや。瑠璃華さんらしくて良いと思う…。…もうちょっと恩着せがましくしても、バチは当たらないと思うけどね」

「そうですか」

と、私は言いました。
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