アンドロイド・ニューワールドⅡ
しかし、そのようなことを、琥珀さんは全く気にしません。

何事もないような顔をして、私と奏さんの間に割り込んできました。

「従って、私はここに来ました。一緒に昼食を摂りましょう、奏先輩」

「え、えっと…あの、」

「奏先輩の昼食は、それは購買部で買ってきたものですか?」

と、琥珀さんは奏さんの昼食(いつもの菓子パンです)を見て、そう聞きました。

「そうだけど…。琥珀さんのそれ、それは何?」

と、奏さんは聞きました。

琥珀さんは、ポテトチップスのような袋と、細長いビニール袋に包まれた、チョコレートバーを持っていました。

「私は、通信販売サイトで箱買いしたプロテインスナックと、高カロリーチョコレートバーです」

「…なかなかヘビーなお昼ご飯だね…」

「『新世界アンドロイド』は、食事を必要としていませんので。それに、一般的な高校生が必要とするカロリーは、充分摂取出来ています」

「うん…でも食事って、カロリーを取れればそれで良いってものじゃないから」

「そうなのですか?」

「やっぱり、食べる楽しみってものがあるからね」

「成程、興味深い意見です。何より、友人である奏先輩のご意見ですから、深く参考にさせて頂きます」

と、奏さんと琥珀さんは話していました。

…私の、入る隙間、余地がありません。

「奏先輩のその菓子パンは、どんな味なのですか?」

「え?いや…今日はクリームパンと、チョコデニッシュだけど…」

「成程。甘い味ばかりですね」

「まぁ…たまには良いかなって…」
 
「そうですね。たまには良いかもしれませんが、私のような『新世界アンドロイド』と違って、奏先輩は人間ですから、適切な栄養の摂取が必要です」

「うん…」
 
「栄養には、気をつけた方が良いと思います」

「そうだね」

と、奏さんは言いました。

…全く、私が介入する余地がありません。
 
怒涛の如く、琥珀さんが奏さんに話しかけ続けるせいです。

…仕方なく。

「…もぐもぐ」

と、私は一人、黙ったまま。

奏さんと琥珀さんが話をするのを聞きながら、静かに焼きそばパンを齧りました。

不思議ですね。

今日の焼きそばパンは、何故か、全く味がしません。
 
菓子パンメーカーが、味をつけ忘れたのかもしれません。
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