アンドロイド・ニューワールドⅡ
「心配しなくても大丈夫です。私はちゃんとほら、チョコレートバーとプロテインスナックを持参していますから」
 
と、琥珀さんは、自分の鞄の中から、昨日と全く同じ昼食を取り出しました。

「余計遠慮するよ。何で自分の分は作らなかったの?」
 
「私は、食事の必要はありませんから。それより、奏先輩に食べてもらいたかったのです」

「いや、そう言われても…」

と、奏さんは困ったように言いました。

遠慮したいけれど出来ない。そんな様子です。

今こそ堅豆腐の精神を見せ、毅然として突き返すときです。

しかし、奏さんは、押せば潰れる豆腐のように、押しに弱いので。

「折角作ってきたので、食べて欲しいです」

「…分かった。今日だけ。今日だけね?有り難く頂きます」

と、奏さんは言いました。

…やっぱり豆腐ですね。

しかも、柔らかい絹豆腐。

奏さんは絹豆腐です。

「ありがとうございます。気合を入れて、深夜から台所に立っていたんですよ」

と、琥珀さんは得意気に言いました。

世間では、これをドヤ顔と言います。

「そこまでして、頑張らなくても…うわっ。え?何これ。重箱…?」

「はい。どうせ作るなら本格的に、と思いまして」

「いや、学校に重箱持ってくる人はいないでしょ…」

と、奏さんは呆然と言いました。

琥珀さんは人間ではなく、アンドロイドですので。

普通人間がしないようなことでも、当たり前のように行うのでしょう。

でなければ、昼休みに上級生の教室に、押しかけてきたりはしません。

「絶対こんなに食べ切れないと思うけど…。うわっ」

と、奏さんは度肝を抜かれていました。

重箱を開けてみると、四段に重なったお重に、それぞれぎっしりとおかずが詰まっていました。

一の重には、おにぎり、肉巻きおにぎり、天むすなどのご飯もの。

二の重には、きんぴらやポテトサラダなどの、野菜のおかず。

三の重には、白身魚のフライ、焼鮭などの魚介のおかず。

四の重には、唐揚げやハンバーグなどの、肉類のおかず。

そして。

「まだなんかついてる…。このタッパーは何?」

「それはデザートのフルーツです。果物も食べて、ビタミンを摂取すべきかと思いましたので」

と、琥珀さんは言いました。

初めてのお弁当作りとは思えない、あまりの出来に。

奏さんは、目眩を起こさんばかりに、くらくらしていました。
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