アンドロイド・ニューワールドⅡ
『…ごほん。と、まぁ瑠璃華ちゃんが、新しい感情を学習したのは良いことなんだけど』

と、久露花局長は、わざとらしく咳払いして言いました。

けど、何ですか。

『今の状況は、如何ともし難いね。瑠璃華ちゃんも相当荒れちゃってるし』

『そうですよね。こんな瑠璃華さんは、初めて見る気がします』

『うん。研究者としては、瑠璃華ちゃんの変化にびっくりなんだけど。でも瑠璃華ちゃんとしては、面白くないだろうね』

と、局長と副局長は言いました。

そうですね。面白くはないですね。

琥珀さんが転入してきたからというもの、ずっとそうです。

『それに、奏君の方も…そんな、半ばストーカーに遭ってる状況は、何とかしたいだろうし』

と、局長は言いました。

琥珀さんはストーカーですか。そうですか。

…私もそう思います。

「ストーカーを、撃退した方が良いでしょうか」

『うん。ちょっと今の状況は改善しないとね』

「分かりました。では、今すぐ琥珀さんのもとに、果たし状を渡しに行ってきます」

『はいちょっと待った。そういうことじゃない。そういうことじゃないから』

と、局長は私を止めました。

何ですか。

ストーカーを撃退するのではなかったのですか。

「あのストーカーは、負けず嫌いな上に、油汚れのようにしつこいので、武力による実力行使もやむを得ないと思います」

『瑠璃華ちゃん…。これは本当に根が深いね。基本平和主義のはずの瑠璃華ちゃんが、自ら武力行使を口にするとは』

『はい…。この二週間で、余程鬱憤が溜まっているんでしょうね』

と、局長と副局長は言いました。

私は変わらず、平和主義者です。

しかし、いかに平和主義者と言えど、全く武力を行使しない訳ではありません。

時には、武力も必要です。

要するに、殴らなきゃ分からない奴もいる、ということです。

私がこう思うのも、嫉妬という感情故なのでしょうか。

如何せん初めての感情ですから、どのように付き合えば良いのか分かりません。

『大丈夫だよ、瑠璃華ちゃんは何もしなくて良い。喧嘩は駄目、絶対』

と、久露花局長は言いました。

「喧嘩ではありません。ストーカーに対する正当防衛です」

『そうだとしても、『新世界アンドロイド』同士で争うのは駄目だよ。それが分かってるから、瑠璃華ちゃんだって、碧衣君と琥珀ちゃんの喧嘩に警告したんじゃないの?』

と、久露花局長は言いました。

…確かにそうでしたね。

そのようなこともありました。

…今思えば、あの警告…しなければ良かったですね。

などと思ってしまう自分がいます。

これは、本当に重症ですね。

嫉妬なる感情か、これほどに扱いにくく、本来の自分を見失わせるとは思いませんでした。

これまでになく、非常に手強い感情です。

どう扱って良いのか分かりません。難しいです。
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