アンドロイド・ニューワールドⅡ
そして、その日の昼休み。

月曜日に行くとのことでしたので、その日も琥珀さんはやって来ました。

「こんにちは、奏先輩。…それから、瑠璃華先輩」

と、琥珀さんは言いました。

そのことに、私は驚きました。

これまで、何度となく琥珀さんは、この教室にやって来ていましたが。

琥珀さんが声をかけるのは、いつだって奏さんだけで。

琥珀さんが、私に声をかけることはありませんでした。

まるで、私だけ見えていないかのように、私の名前は呼びませんでしたからね。頑ななまでに。

呼んだら負けと言わんばかりに。

しかし、そんな琥珀さんが、たった今。

呼びましたよね?私の名前。

しかも、奏さんと同じく、先輩という呼称で。

一体どういう風の吹き回しなのか、切実に聞きたいですね。

すると。

「今日は、バスクチーズケーキを作ってきました」

と、琥珀さんはケーキボックスから、手作りのチーズケーキを出しました。

やはりチーズケーキですね。

しかも、私の予想通りのチーズケーキでした。

「チーズケーキを作るのも、今週から週に一度にします」

と、琥珀さんは言いました。

そして、それだけではありません。

「…良かったら、瑠璃華先輩もどうぞ」

と、琥珀さんは私にもチーズケーキを勧めてきました。

あまりに驚いて、一時機能停止するところでした。

本当に、どうしてしまったのですか琥珀さん。

この数日のうちに、人が変わった、いえ。

アンドロイドが変わった、としか言いようがありません。

これまでは、私のことなど完全にアウトオブ眼中だったというのに。

大丈夫でしょうか。本当に琥珀さんですか?

それとも、実はこのチーズケーキに、何かトラップが?

などということも、危惧してしまいます。

「大丈夫ですか、琥珀さん。あなたは本当に琥珀さんですか?」

と、私は聞きました。

嫌味ではなく、本当に疑問です。

そっくりさんではないですよね。まさか。

すると。

「私は先日、橙乃局長に怒られました」

と、琥珀さんは言いました。

「負けず嫌いは悪いことではないけれど、先輩を蔑ろにしてはいけないと。そして一人に限らず、大勢の人間と友好関係を築くよう、努力しなければならないと」

と、琥珀さんは言いました。

そうですか。そのようなことを、橙乃局長が。

「従って、これからは自分のクラスでも、友人を作る努力をします。いつまでも先輩方のご厚意に、甘える訳にはいきません」

と、琥珀さんは言いました。

「橙乃局長のご意向に添い、今日からは、態度を改めることにします。宜しくお願いします」

と、琥珀さんは言いました。

そうですか。

「い、いきなりどうしたの…」

と、奏さんは驚いていましたが。

私は、もう驚きませんでした。

橙乃局長に言われたのであれば、そうなるでしょう。

琥珀さんは、良くも悪くも素直ですから。

「分かりました。そういうことなら、私も嫉妬心をみなぎらせ、あなたを煙たがるのはやめます」

と、私は言いました。

私とて、醜い嫉妬心にはうんざりしていたところだったのです。

琥珀さんが改心されると言うなら、先輩である私も、率先して心を改めなければなりません。

「同じアンドロイド同士、改めて仲良くしましょう、琥珀さん」

「はい。努力します」

と、琥珀さんは言いました。

アンドロイド同士ではありますが、新たな友情が芽生えた瞬間ですね。
< 322 / 467 >

この作品をシェア

pagetop