アンドロイド・ニューワールドⅡ
「上書き…?」

「そう。こういうところに来る度に、家族が生きてた頃のことを思い出して、辛くなるけど…」

「…」

「でも瑠璃華さんとこうして遊びに来て、瑠璃華さんと楽しい思い出を作って、『家族が生きてた頃の記憶』じゃなくて、『瑠璃華さんと一緒に来て楽しかった記憶』に上書きしてるんだ」

と、奏さんは言いました。

…何だか、難しいことを言っているように聞こえますが。

一人で来ると、昔のことを思い出して辛くなるけども。

私と一緒に来ると、昔の記憶が、今の楽しい記憶にすり替わると。

そういうことでしょうか。

人間の脳みそとは、便利なものですね。

「器用ですね、奏さん」

「そうかな?」

「はい。そして過去を克服しようとするその姿は、とても勇敢だと思います」

「瑠璃華さんほどじゃないよ」

と、奏さんは謙遜して言いました。

私が勇敢だったことって、ありましたっけ?

「俺は瑠璃華さんほど、勇気と度胸のある人を見たことがない」

と、奏さんは言いました。

そうですか。

それと、私は人ではなくアンドロイドです。

「俺みたいな厄介者のお荷物と、当たり前に普通に接してくれて…。って、それは瑠璃華さんに限らず、瑠璃華さんの親戚一同、皆そうだけど」

「そうですね」

と、私は言いました。

『Neo Sanctus Floralia』の、大原則ですから。 

人間であろうともアンドロイドであろうとも、尊重されるべき一人の個であると。

決して、蔑ろにされて良いものではないのです。

「瑠璃華さんが転入してきてから、俺の人生は180°変わったよ」

と、奏さんは言いました。

「これまでは、自分を押し殺して、黙っているのが当たり前だったのに…」

「それは、今までがおかしかったのでは?」

「そんな風に言ってくれる人も、瑠璃華さんが初めてだったんだよ」

と、奏さんは言いました。

前も、そのようなことを言っていましたね。

イルミネーションのせいでしょうか。

奏さんも、少々センチメンタルになっているのかもしれません。

イルミネーションは、人をセンチメンタルな気分にさせる、不思議な魔力を秘めているのでしょうか。

興味深いですね。

「だから…。だから、俺は…」

「…だから?」

「だから、俺はる…瑠璃華さんのことが、す、」

と、奏さんが言いかけた、そのとき。

「あれ?見覚えがあると思ったら、瑠璃華さんと奏さんじゃないですか」

と、聞き覚えのある声がしました。
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