アンドロイド・ニューワールドⅡ
人混みを、掻き分け掻き分け。

見晴らしの良い、近くの公園までやって来ました。

ここなら、高いところに遮蔽物もなく、空全体を見上げられると思ったのですが。

やはり、考えることは皆さん同じのようで。

「凄い人ですね」

「うん…。予想はしてたけど、予想以上だ」

と、奏さんも言いました。

公園の中は、ぎっしりと人が集まっています。

足の踏み場もない、という奴ですね。

公園の中まで入りたいのですが、とてもそんなスペースは見つけられません。

「選択肢は三つあります」

「え?何の選択肢?」

と、奏さんは聞き返しました。

これから打ち上げられるであろう花火を、誰にも邪魔されずに堪能する為の選択肢です。

「1、別のポイントを探す。2、私が奏さんの車椅子を担いで持ち上げる。3、木の上やビルの上などによじ登る。はい、どれが良いですか?」

「三分の二がアウトじゃん。何その後半二つ」

と、奏さんは言いました。

アウト?何がですか?

良い考えだと思ったのですが。

「持ち上げなくて良いし、よじ登らなくても良いよ。危ないから」

「ご安心ください。私の通常モードでの最大積載量は、およそ300キロ。奏さんを持ち上げることくらい、訳ありません」

と、私は何度も言ったことも、再び口にしました。

「そして、こんなこともあろうかと、このように機能性のある浴衣を着用してきました。今こそ、その真価を発揮するとき…」

「じゃない。発揮しなくて良い。ちゃんと二人共、地面に足着けて見ようよ」

「そうですか」

と、私は答えました。

残念です。

「では、選択肢1にしましょうか?」

「何だっけ、選択肢1…」

「別のポイントを探すことです」

と、私は答えました。

「あぁ、うん…。確かに、神社の境内とか、展望台とか…。他にも見えやすいポイントはあるらしいけど」

「けど?」

「この公園でさえ、これだけ人が集まってるんだから。きっと他の場所に移動しても、人混みなのは変わらないよ」

と、奏さんは言いました。

それはそうかもしれませんね。

むしろ、花火の打ち上げが始まったら、今よりもっと人が増える恐れもあります。

だったら、もう移動はしない方が良いかもしれません。

「大丈夫だよ。忙しないけど、ここで見よう。充分だよ」

と、奏さんは言いました。

「分かりました。では、ここで花火見物しましょうか」

「うん、そうしよう」

と、奏さんは頷きました。

絶景ポイント…とまでは行きませんが。

この人混みでは、そんなポイントを見つけるのも難しいですね。

今日は、ここで我慢しましょう。

来年また来ることがあったら、そのときは、もっと良いポイントをリサーチして来ることにします。
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