アンドロイド・ニューワールドⅡ
しかし。

奏さんの身に何かが起きたのは、明らかでした。

授業中、私はずっと、授業を聞いている振りをして。

奏さんの様子、その一挙一動を、つぶさに観察していました。

出来れば、奏さんご本人の口から、何があったのか聞きたかったですが。

奏さんは、私に話をするつもりはない、とのことでしたので。

観察することで、何が起きたのか推測するしかありません。

やはり、様子がおかしいですね。

見ていたら分かります。

奏さんは授業中、ずっと上の空でした。

教師の話も、ちっとも聞いている様子はありません。

それどころか、ノートを取ることもしていません。

シャープペンシルを、握ってはいるものの…それを動かすことはしていません。

持て余しているだけです。

ひたすらぼんやりとして、時折虚空を見つめ、浮かない顔をしていました。

これはやはり、確実に何かありましたね。

最早、疑いようがありません。

奏さんが大変です。

奏さんが大変だということは、私も大変です。

「じゃあ、次の問題を…久露花さん、解いてもらえる?」

と、教師は私の名を呼びましたが。

私は、奏さんを救わなくては、という使命感でいっぱいになっていたので。

全く気づきませんでした。

私は奏さんの親友ですから。

親友の身に危機があれば、共に乗り越えるのが親友の役目です。

と、以前読んだ『猿でも分かる!親友の作り方』に書いてありました。

つまり、そういうことです。

まずは、何があったのかを把握する必要がありますね。

「久露花さん?ちょっと、久露花さん聞いてる?」

と、教師は再度私を呼びましたが。

残念ながら、私は今、それどころではありません。

世界を救うより大事な、親友を救うという役目を背負っていますから。

今現在、奏さんを救うこと以上に、大切なことはありません。

が。

「久露花さん!何をぼんやりしてるの?」

と、教師は語気を強めて、私を呼びました。

そのときようやく、私は自分が呼ばれていることに気づきました。

…はい?

「…何か御用ですか?」

「御用じゃないわよ。授業中にぼんやりして。問題を解いて。150ページの問4…」

「お断りします」

と、私は言いました。

教師も、クラスメイトの皆さんも、奏さんも。

ポカンとして、私を見ていました。

注目を集めたところ、申し訳ありませんが。

私は今、それどころではありません。

「私は現在、最優先重要事項をクリアする為に、脳内の全リソースを使っています。問題を解くなどという、優先度の低い事案の為に、例え僅かでもリソースを割きたくはありません」

と、私は説明しました。

それを聞いた教師は、しばしポカンとして。

そして。

「…分からないの?なら、素直にそう言いなさい」

と、教師は言いました。

どうやら、私が問題を分からないから、言い訳をしているように聞こえたようです。

しかし、それは誤解です。

私は、問題が分からないのではありません。

それ以上に、優先すべきことがあるだけです。
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