アンドロイド・ニューワールドⅡ
奏さんがいなくなることを、望んでいる訳ではありません。

ただ奏さんがここから去ることで、奏さんご自身が今より幸福になれるのなら。
 
それなら、私は奏さんを引き留める訳にはいきません。

後腐れなく、快く送り出すだけです。

親友ですから。

親友の幸福を願うのは、誰しも当たり前のことでしょう?

人間であろうとも、『新世界アンドロイド』であろうとも、それは共通のはずです。

一晩考えて、私はそのような結論を出しました。

「私は奏さんが、幸せに暮らすことを望んでいるだけです」

「…」

「そして、奏さんが転校することが、その幸福に繋がるのなら…私は快く送り出すつもりです」

と、私は言いました。

「…そっか。…そうだね、ありがとう」

と、奏さんは言いました。

私から、視線を逸らして。

「あと一学期の付き合いになりますね。…最後まで、宜しくお願いします」

「…うん、こちらこそ宜しく」

と、奏さんは言いました。

やはり、私から視線を逸らしたままでした。

「…でも、一つだけ聞いて良い?」

と、奏さんは聞きました。

「はい、何でしょう」

「瑠璃華さんは…俺がいなくなっても、平気なんだ?」 

と、奏さんは、何故か断定するように聞きました。

平気?

それは平気です。

特定の誰かが目の前からいなくなって、それで私の身体に不調が起こることはありません。

しかし。

「平気ですよ。…でも」

「…でも?」

「…奏さんのいない日常に…慣れるには、きっと時間がかかるでしょうね」

と、私は言いました。

何日、何ヶ月、それとも何年でしょうか。

『新世界アンドロイド』の、適応力の高さを以てしても。

奏さんのいない毎日が、当たり前になる日は…きっと、凄く遠いと思います。

…これまでは、それが当たり前のはずだったのですけどね。
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