アンドロイド・ニューワールドⅡ
「…はい、良いですよ」

と、私は答えました。

…琥珀さんとは、毎週一緒に帰っているそうですが。

私と一緒に下校するのは久し振りですね。

「良かった。じゃ、一緒に帰ろう」

「はい…」

と、私は言いました。

奏さんの車椅子を押して、一緒に下校する。

今は、このようなことも当たり前のように出来ますが。

あと一学期が過ぎたら、もう出来なくなるのですよね。

私は、今をとても…とても、大事に生きなければなりません。

「…次の学校でも」

と、私は口をついて、言葉が出ていました。

「うん?」

「次の学校でも…こうして、車椅子を押してくれる方が、いらっしゃると良いですね」

と、私は言いました。

何を、詮無いことを。

「そうだね…いたら良いね」

「…」

「…瑠璃華さんみたいな人は、滅多にいないけど」

と、奏さんは言いました。

…そうでしょうね。

まず、アンドロイドを探すのが大変でしょうね。

『Neo Sanctus Floralia』以外で、アンドロイドを造っている組織なんて、私も聞いたことがありませんから。

「瑠璃華さんこそ」

と、奏さんは言いました。

「はい?」

「友達、出来ると良いね。来年も」

「…」

と、私は無言になりました。

そういえば、そうですね。

奏さんのことばかり、考えていましたけど。

奏さんがいなくなったら、来年度、私は一人も友達がいなくなるのでした。

一人ぼっちですね。

…別に問題はありません。

最初に編入学してきたときも、一人だってのですから。

また新たに、友人を作れば良いだけです。

…でも。

「…奏さんのような友人に、また出会えるでしょうか」

と、私は呟きました。

この世に、同じ人間は二人といません。

奏さんのような友人が、来年度、また出来るかどうか…。

正直なところ、自信はありませんでした。

何故そう思うのでしょう。

もしかしたら、別に…もっと仲良くなれる、親友と出会える可能性だってあるのに。

私には、そのような未来が想像出来ないのです。

「…私のことは、何も心配しないでください。奏さんは新しい生活が始まるのですから、自分のことを一番に考えてください」

と、私は言いました。

そう言うのが、正しいはずです。

私は奏さんの親友ですから。親友のことを、第一に考えて…。

…彼が後ろ髪を引かれる思いをすることがないよう、快く送り出すべきなのです。

頭では、そう理解しています。

…それなのに。

それなのに、私の心が。

存在しないはずの、心が。

どうしても、違うことを叫ぼうとするのです。

「…そうだね」

と、奏さんは言いました。

「俺にとって、何が一番良いのか…どうするのが正解なのか…自分のこと、ちゃんと考えるよ」

「…行かないでください」

と、私は口走っていました。

自分の意志に反して。

いえ。

自分の心に従って、私はそう口にしていました。

「…え?」

「行かないでください、奏さん。あなたがいなくなったら…私は寂しいです。心に…存在しないはずの心に、穴が空いたように感じます」

と、私は言いました。

堪えきれない感情が、私の中に溢れているようでした。

何故、このようなことを奏さんに、唐突にぶつけてしまったのか。

理性では抑えきれない、感情が溢れて。

私の心の、弱いところが。

私の心の、とても人間的なところが。

どうしても、叫ばずにはいられなかったのです。

親友を失うことを、私はこんなにも悲しく、そして寂しく思っているのだと。
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