アンドロイド・ニューワールドⅡ
「…瑠璃華さん…」 

と、奏さんは驚いたような顔で言いました。

…私は、逃げていました。

奏さんの為と言いながら、親友を快く送り出す為と言いながら。

その実、私は自分の心と向き合うことから、逃げていたのです。

私の心は、こんなにも素直に、奏さんを失いたくないと叫んでいたのに。

それを無視することは、結局出来なかった。

情けないです。

でも、これが偽らざる、私の本当の気持ちなのです。

行かないで欲しい。寂しい。奏さんがいなくなったら悲しい。

なんと単純な気持ちでしょう。
…なんと我儘な気持ちでしょう。

でもこれが、私の本音。私の、素直な気持ちなのです。

あなたは正しかったですね、久露花局長。

自分の心に、素直であれと。

本当にその通りでした。

ずっと言いたかった気持ちを、ようやく奏さんに伝えることが出来て。

状況は何も変わらなくても。むしろ、奏さんを困らせるだけですが。

でも、自分の心を偽り、本音を我慢し続けるよりは、ずっと気持ちが楽になりました。

「…済みません。このようなことを言っても、奏さんを困らせるだけですね」

と、私は言いました。

言いたいことを全て言ったら、少し落ち着きました。

ようやく、正気に戻った気分です。

「瑠璃華さん…今の」

「今のは…忘れてください。私の、身勝手な我儘です」

と、私は言いました。

私の感情など、奏さんが気にすることではありません。

「奏さんの幸せを優先してください。それが、私の幸せです」

「でも、寂しいって言ったよね。行かないでって…」

「それは…言いましたね。私の、偽らざる本音です」

と、私は言いました。

一度言ってしまったのですから、今更撤回することは出来ません。

認めざるを得ません。

私は奏さんがいなくなることを、寂しく思っているのだと。

本当は、行って欲しくないのだと。

でも、それとこれとは別の話です。

「私の我儘の為に、奏さんの幸福を邪魔したくはありません」

と、私は言いました。

先程の、情けない感情の発露も、私の本音ではありますが。

こちらも、同じく本音です。

行って欲しくはない。しかし、奏さんには幸せになって欲しい。

両立出来ない二つの思いが、私の中にあります。

人間の心というのは、なんと複雑なものでしょう。

難しくて、ややこしくて…単純とは程遠い。

非常に扱いにくくて、手に余る代物です。
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