アンドロイド・ニューワールドⅡ
「そりゃね…。パンの味が一ヶ月で変わってたら、俺はメーカーに苦情を入れるよ」

と、奏さんは言いました。

そうですか。そういうものですか。

私としては、何か変化しても良かったのですが。

でも、あの懐かしい焼きそばパンの味が変わっていたら、それはそれで、寂寥に駆られるのかもしれません。

「では、今度はこちらのくるみパンを」

と、私はくるみパンの袋を手に取りました。

懐かしいですね。

私がこの学院に来たとき、最初に食べた焼きそばパンと。

奏さんがおすすめしてくれて、初めて一緒に食べたくるみパン。

二学期の出だしを飾るには、この上ない組み合わせです。

「こちらは…もぐもぐ。…ふむ、やはり味に変化はありませんね」

「うん、良かった。くるみパンの味が変わってたら、俺が悲しむところだった」

と、奏さんは言いました。

好きな食べ物の味が、一ヶ月で変わっていたら、確かに悲しくなるでしょう。

やはり、味に変化がなくて良かったのかもしれません。

もぐもぐ。

「…ところで、奏さん」

「ん、何?」
 
と、奏さんは首を傾げました。

「一つ聞きたいことがあるのですが…」

「うん。どうかした?」

「一時間目の、生物の授業。奏さんのグループは、何処まで進みました?課題の方は」

と、私は尋ねました。

他グループの課題の進捗状況を尋ねるなど、敵情視察だと思われるかもしれません。

従って。

「勿論、敵に塩を送るつもりがないなら、答えなくても結構ですが…」

「えぇ?いや、そんな…。別にグループ別に争ってる訳じゃないんだから、言っても良いと思うけど…」

「そうですか」

と、私は言いました。

それなら良かったです。

「…って言っても、そんなに進んでないけど」

と、奏さんは言いました。

「そうなんですか」

「うん」

と、奏さんは頷きました。

ということは、奏さんの第2グループも。

お互いに「面倒臭い」、「お前がやれ」と押し付け合い、何一つ進まなかっ、

「今日進んだことと言ったら…精々、テーマが決まったことくらいかな」

「素晴らしい進捗状況ではありませんか。奏さん」

と、私は言いました。

私に心はありませんが、思わず感動してしまいそうになりました。

「え、えぇ…?何処が?」

「だって、テーマが決まったのでしょう?」

「うん、決まったけど…。それだけだよ。他のグループは、もう役割分担とか決めて…もう資料集めを始めてるグループもあるみたいだし…」

と、奏さんは言いました。

そのようなグループもあるのですね。それはますます素晴らしいです。

しかし、役割分担や資料集めどころか。

まだ、テーマの「て」の字すら、全く話し合えていないグループだってあるのです。

私のグループのように。

それを思えば、まずテーマを決めることが出来るほど、話し合いが成立したというだけで…充分羨ましいです。

ちなみに、参考までに聞かせて頂きたいです。

「模倣、いえ、有り体に言えばパクるという行為は、決してしませんので、教えて頂けませんでしょうか」

「え、何を?」

「どのようなテーマにしたのかを、です」

と、私は尋ねました。

私達のグループは、まだ何も決まっていないので、是非とも教えてもらいたいものです。
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