アンドロイド・ニューワールドⅡ
それから、およそ一週間後。

五回目の生物の授業も終わり、どのグループも課題レポートを提出した、その次の授業のときのことです。

「前回、皆さんに提出してもらったレポートだけど…」

と、生物教師は切り出しました。

何でしょう。

「皆さん、どのグループも素晴らしかったです。五回の授業の中で、よく調べましたね」

と、生物教師は笑顔で言いました。

お褒めの言葉のようです。

とはいえ、大抵のグループは五回の授業だけではなく。

昼休みや放課後も返上しているので、五回分の授業の時間以上に費やしていると思われます。

「そして、その中でも特に、今回抜きん出て素晴らしいレポートを提出したグループがあります」

と、生物教師は言いました。

ほう。グループごとに、課題に優劣をつけるのですね。

「そのレポートを、皆さんにも紹介します。これは…第4グループが提出してくれた、題して、『毒キノコの生態系』です」

と、生物教師は、模造紙を黒板に貼り出しながら言いました。

第4グループと言えば、私の所属するグループですね。

しかも『毒キノコの生態系』。聞き覚えがあります。

言わずもがな、私の書いたレポートですね。

「毎年同じ課題を出してますが、ここまで詳細に、そして分かりやすいレポートを提出してもらったのは、初めてです。しかも、今回一番乗りで提出してくれたんですよ」

と、生物教師は更に、お褒めの言葉を口にしました。

黒板に貼り出された、私の『毒キノコの生態系』を見て、他の生徒は感心したり、「何で毒キノコ…?」と呟いたりしていました。

何故毒キノコなのか。それは、私の頭に毒キノコが浮かんだからです。

「きっと、グループの皆で協力し、一致団結した証でしょうね」

と、生物教師は言いました。

それは違います。

私が書いたレポートを、褒めてくださるのは有り難いですが。

そのレポートは、私が一人で書いたものです。グループメンバーの協力など、一切ありません。

「しばらくここに貼り出しておきますから、皆さんも読んでみてください。最初は『何で毒キノコ?』と思いますけど…」

と、生物教師は言いました。

教師もそう思ったんですか。

「読んでみると、とても惹き込まれますよ。はい、皆さん。素晴らしいレポートを提出した第4グループの6人に、拍手!」

と、生物教師は、自らが拍手をしながら、生徒達にも拍手を促しました。

すると、何も知らない他グループの生徒は、私達に拍手を送りました。

この拍手は、私だけに送られているものと判断して良いでしょうか。

その証拠に。

自分は何の協力もしていないのに、何故か褒められる立場となってしまった、第4グループの他のメンバーは。

何処か決まり悪そうに、気まずそうに、顔を逸らしていました。
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