望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
 ツンと鼻につくカビの匂い。それから、錆の匂い。むしろ、血の匂い。

「はっ」

 カレンは息を飲んだ。目の前に倒れているのは、母親。その脇に立っているのはあの家に来た男。このケネスが隊長と呼んでいた男。

「お母さん」

 駆け寄ろうとしたが、その肩をケネスに押さえつけられた。
「行ってはなりません。レイア様は、すでに」

 すでに、って何?
 振り返り、キッと彼を睨みつける。

「離して」

 カレンは激しく肩を振り、その手を振りほどこうとする。たが、ケネスも線は細いがこの国の騎士の男。たかが小娘如きに振りほどけるような力でもない。ケネスは肩に置いた手を、カレンのお腹の前で組み、彼女を抱きしめるような形で押さえつけた。

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