望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
 誰に言うわけでもなく、カレンは呟いた。カレン自身に言い聞かせるかのように。
「ちょっと痛いかもしれないけれど、ごめんね」

 あてがっていたタオルを外し、そこに右の手の平を当てた。柔らかい光が生まれて、その傷口を温かく覆っていく。すると、ゆっくりとえぐれた肉を再生し始めたのだ。
 治癒魔法――。失った命を取り戻すことはできないが、あるものをなんとか再生することだけはできる。

「ふう」
 治癒魔法を終えると、カレンの額にはうっすらと汗が浮かんでいた。それを右手の甲でぬぐう。
「ごめんね、一度に治せなくて。そっちの方は、今、止血するわね」
 そっちの方とは、後ろ脚の切り傷のことだ。切り傷だがその傷口が深いため、血に染められている。もしかしたら、肉まで切れているのかもしれない。
 とにかくあるものでそこを押さえ付け、傷口をきつく縛った。黒豹は歪んだ表情を見せるが、声を出すことはない。我慢強い子なのだろうか。

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