望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
「あなた、あのときの子に似ている」
 カレンは再びその黒豹のお腹に顔を埋めた。この顔を黒豹に見られないように、と。
「あの子もね、とても酷い怪我をしていた。ちょうど、戦争があった頃。人間の身勝手さが、あなたたちを傷つけてしまったのよね」
 ごめんなさい、と小さく呟くと、ぎゅっと黒豹を抱く。
「あの子、無事だったかしら。怪我が治らないうちにいなくなってしまったの」

 そこでカレンの言葉は途切れた。恐らく、そのまま眠ってしまったのだろう。
 しばらくすると、彼女からは規則正しい寝息が聞こえてくる。黒豹も身体を丸めたまま、彼女の体温をしばらく感じていた。

 幾分かの沈黙の後、カチャリと隣の続きの扉が開く。
 黒豹はその音に反応して顔を上げた。

「兄さん、何をやっているんですか」
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