望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
「すごいや。あれだけの怪我だったのに、今ではすっかり治っている。義姉さんは魔導師だったんですね。そんな情報、向こうからきていないのに」

「そもそも魔導師なら、ここへは来ないだろう。国宝だからな」

「ということは。あちらでも把握していないってことですね」

「本人はそう言っていたな」

「なんだ、兄さん。義姉さんが魔導師だってこと、知っていたんですね」
 アドニスは腕を組んで、笑みを浮かべた。「まあ、いいや。兄さん、当分、人型に戻れないのであればここにいてくださいね」

 アドニスの言う「ここ」とはカレンの部屋のことだろう。

「義姉さんは、本当に不思議な人だ」
 アドニスは豹の背後から手を伸ばして、それのお腹に顔を埋めているカレンの頭を撫でた。カレンは気持ちよさそうに眠っている。

 だがレイモンドの心の中には、認めたくない何かがあった。
 アドニスはカレンの部屋の明かりを消すと、隣の部屋へと消えた。
< 75 / 269 >

この作品をシェア

pagetop