trade
「蒼君、ごめん。
私、蒼君と離れたくなかった」
あのまま自供した方が、蒼君の罪はまだ軽かったかもしれない。
こうやって逃げて、さらに蒼君を犯罪者にしてしまったのかもしれない。
「未希、謝るのは俺の方だから。
未希を巻き込みたくなかったのに。
ただでさえ、未希は父親が殺人犯で苦労したのに。
俺まで…」
「蒼君…」
もしかして、昔、蒼君が私の前から居なくなった理由は…。
「蒼君、昔私の前から居なくなったのは、
私を巻き込まない為?」
「…初めは、な。
あのまま未希と付き合ってて、お前を殺人犯の恋人にしたくなかった。
俺が捕まれば、警察がお前の所に行くかもしれない。
警察だけならともかく、マスコミとか。
そういった面倒事に巻き込みたくないから、未希の前から消えないと、って思った。
でも、この前言った通りだよ。
気付いたら、俺は上杉朱になっていて。
武田蒼にもう戻りたくなかった」
そうだったんだ。
蒼君が私の前から、突然居なくなった理由は。
「今さらだけど、思うよ。
昔は毎日忙しく働いて、安い給料で食いたいものも欲しいものも色々我慢して。
それでも、お前が居てくれたから、それだけで良かったのにって」
「うん…」
「全部、朱に返すから。
あの頃に戻りたいな…。
って、結果論だよな。
こうやって、殺人犯として追われて、全てを失ったからそう思うのかもだな」
蒼君は、そう小さく笑う。
「全ては、失ってないよ?
だって、私が居るじゃない!」
一生逃げれるなら、このままずっと蒼君と逃げてやろうと思う。
「…未希」
蒼君は、言葉に詰まったように私を見返して来るだけ。
蒼君は、もう諦めているんだな。