trade
すぐに私達は駅に行き、電車へと乗り込む。


どこに行くか決めてないからと、
蒼君は、千円分程の切符を2枚買って、一枚を私に渡してくれた。


金額が足りなければ下りる時に乗り越しで支払えばいい、と。


ホームへと行き、直ぐに来た快速電車に二人乗り込んだ。


車内はそこそこ空いていて、
蒼君と二人並んでシートに座る。



一体、このまま何処に行くのだろうか?


JRだから、乗り継げば遠い場所まで行ける。


「N県に、上杉家の別荘があるんだ。
とりあえず、そこに行こうか」


ポツリ、と聞こえた蒼君の言葉に、頷いた。


N県。


新幹線なら一時間程だけど、電車なら三時間くらいかな。


蒼君は、先程から必要な事以外殆ど話さない。

今はもう、口を閉ざしている。


私も、そう。


警察が蒼君を捕まえようと追っているのかもしれない、と思うと。


今も、不安で仕方ない。


だから、楽しい話をしようと思う気分になれなくて。


きっと、蒼君もそうだろう。


私達はそうやって、殆ど会話はないけど、
ずっと手を繋いでいた。



そのペンションは、N県のK市にあり、
最寄駅から、けっこう歩いた。


なんとなく、私達の顔をハッキリと見られたくなくて、
タクシーは避けた。


険しい山道を一時間程歩き、その場所に到着した。

上杉家の別荘だとかいうから、てっきり鍵を持っているのかと思ったけど。

蒼君は、大きな掃き出し窓のガラスを、落ちていた石で割り、
鍵を開けた。

その別荘は、山の中にあるけど、わりと近代的な一軒家。

辺りにもポツポツと別荘なのか普通の住居なのか、それと思わしき建物があるが、距離は離れている。



「ガラスに気を付けて。
なんなら、もう靴のままでいいよ」


そう言って、蒼君は靴のまま室内に入った。


この家のリビングなのだろか?


大きなソファーや、テレビがある。


「お邪魔します」


私も靴のまま、足を踏み入れた。


ガラスを踏み潰す音が、響いた。



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