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その後も、順番に色々な動物のエリアを回る。


とても大きな動物園で、敷地が無駄に広く、一つ一つの動物のエリアが、離れていて、凄く歩かされる。


昨日から、走ったり歩いたりしているので、
かなり足が張って来ている。


そして、虎舎のエリアに来た。


こちらもゴリラの時同様、一部がガラスになっていて、
目の前で虎が見れる。


3匹の虎が居て、2匹は奥で眠っているのだけど、
一番大きなオスの虎は、ガラスの前をゆっくりと歩いている。


その虎の美しさもそうだけど、迫力に圧巻される。


虎を見て、ふと永倉さんを思い出した。

彼の背の虎も、とても美しくて猛々しかった。


永倉さんの弟さんが、虎が好きだから、永倉さんは虎の刺青を入れたんだっけ?


でも、虎自体、永倉さんみたいだな、と思った。


そっか。


だから、永倉さんの弟は虎が好きなのか。


「未希、俺、自首しようと思う」


隣からそう聞こえ、虎に向けていた視線を、蒼君に向けた。



「何言ってんの?
昨日、一緒に逃げるって…」


周りに人が居るのに気付き、声を抑えた。


「昨日、刑事達が俺の元に来て、ホッとしたんだ。
もう逃げなくていいって。
未希にしたら、昨日今日の出来事だろうけど、
俺は5年前からずっと逃げていたんだ」



蒼君は、朱を殺した5年前からずっと、朱を殺した事が露見するのを恐れていた。



「ずっと、警察に捕まりたくない、って思っていたけど。
でも、やっと捕まえて貰えるって、肩の重荷が無くなったようだった」


「蒼君…」


自首なんて、嫌だよ。


捕まったら、また離れ離れになるじゃない。


そう思うけど、蒼君の顔が本当に辛そうで、それが言葉にならない。


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