trade
「未希は、俺じゃない誰かと幸せになって」
「何言ってんの?」
「未希は、俺以外の誰かと、普通に幸せになれよ。
結婚だけじゃなく、子供なんかも生まれてさ。
笑いの絶えない家庭作って。
けど、一枝さんはダメだから。
嫉妬じゃなくて、あの人は普通じゃないから。
一枝さんとは、普通の幸せは得られない」
「さっきからなに言ってんの!
一枝さんがとかじゃなく、私は蒼君以外嫌だし。
それに、私は殺人犯の娘で…。
そんな、普通の幸せなんて手に入れれるわけない!」
そう言う私に、蒼君は悲しく笑う。
「俺と、約束して」
そう言って、蒼君は私に小指を立てて、右手を差し出して来る。
「そんな約束、するわけないでしょ」
「でも、俺はもう自首する。
決めたから」
そう言って、蒼君はその手を下ろした。
「―――自首、すればいいよ。
でも、私はずっと蒼君を待ってるから」
それは、何年待てばいいのかは分からないけど。
蒼君が罪を償う迄、私は待っていても構わない。
「待つって…。
それより、他の男と幸せになれよ?」
「だから、私は殺人犯の娘で。
どうせ、ずっと一人だろうから。
蒼君を何年も待つのも、苦痛じゃないよ。
面会とか出来るなら、蒼君にずっと会えないわけじゃないし」
そう話していて。
きっと、これが正しい選択なのだと思った。
蒼君が罪を償えば、もう堂々と蒼君と一緒にいられる。
そして、上杉朱の遺体が見付かった今、
もう蒼君は上杉朱ではない。
武田蒼としてのこの人と、私はずっと一緒に生きて行ける。
「そう。分かった」
蒼君は、俯いていて。
それがただ俯いただけなのか?
いつもの嘘を付く時の癖で爪先を見たのか。
どちらか、分からなかった。