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「【笑い鳥】でいい?」


駅近くの商店街で、その看板を蒼君が指差している。


「え、別にいいけど」


【笑い鳥】は、日本全国に数多ある居酒屋チェーン店。

安くて、旨い、と人気のお店。


私も、何度か利用した事はあるけど。


なんで、このお店なのだろう?とは思う。


だって、こうやって二人でご飯を食べたり出来るのも、最後かもしれないのに。


【笑い鳥】の店内は、日曜日の夜だからか、スーツ姿の人は居ない。

大学生とかの、若い子達が多いように思う。



「俺、とりあえずビール飲みたい。
未希は?」


テーブル席に通され、蒼君はそう私に問い掛けて来る。


「私もビール」


普段、ビールなんて飲まないけど。

スッゴい喉が渇いていて、気分はビール。



テーブルに案内してくれた男性の店員さんに生中二つを注文すると、
それは直ぐに運ばれて来た。


「じゃあ、乾杯」


そう、蒼君は楽しそうにグラスをこちらに向けて来る。


昨日の、あの暗い表情とは一変して。


声も、明るいし。


自首すると決めて、気持ちが楽になったのだろうな。


今日の朝から、蒼君は言葉数が増えたから、
朝には、もう自首する事を決めていたんだな。


このスッキリとした蒼君の表情を見ていたら、
自首なんて辞めて、なんて、もう言えないな。



料理は、蒼君が適当に決めて頼んでくれる。

テーブルの上のタブレットを触っている。



「えっと。肉巻きおにぎり…。このスルメのやつと…。ちくわの磯辺あげ…。
コーンバター…。やっぱり、ポテトと鳥の唐揚げは外せないよな。
俺、ほっけ食べたいな…。
あ、サラダはこの和風サラダにしよ…。
唐揚げ頼んだけど、チキン南蛮も…。
だし巻き忘れてた!
後は、焼きそば…」


「ちょっと、蒼君?」


手元のタブレットで、バンバンと注文して行く蒼君を、止める。


だって、二人でそんなに食べられないでしょ?

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