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「あ、蒼君!!」
私がそう叫ぶと同時に、蒼君は私の上から転げ落ちるように、
地面に倒れた。
「…み…き…」
蒼君が声を出すと、手で抑えている首からだけじゃなく、口からも血が大量に溢れ出す。
辺り一面が、血で染まって行く。
「蒼君…死んじゃ嫌だよ…」
私は体を起こし、そんな蒼君に目を向ける。
その大量の血や、蒼君の姿を見て、
もうこの人は助からないのだと思った。
「…やく…そ…く…」
私に手を伸ばして、震えながら小指を立てている。
"ーー未希は、俺以外の誰かと、普通に幸せになれよ。
結婚だけじゃなく、子供なんかも生まれてさ。
笑いの絶えない家庭作って。
けど、一枝さんはダメだから。
嫉妬じゃなくて、あの人は普通じゃないから。
一枝さんとは、普通の幸せは得られないーー"
今日、動物園で蒼君にそう言われた。
約束、だと。
「…蒼君は、全然私との約束守ってくれないのに。
嘘ばっかりで」
私の目から涙が溢れて、蒼君の姿が赤くぼやけて行く。
その蒼君の小指に、私は小指を絡ませた。
その瞬間、蒼君のその手から力が抜けて、地面に落ちた。