trade



「にしても、女の一人暮らしでオートロックもなく、一階に住んでるとか、物騒だな?」


永倉さんは、私のワンルームマンションの部屋のど真ん中で、胡座をかいている。


元々広い部屋じゃないけど、この人が居ると、部屋が一段と狭く感じる。


狭くなった部屋の隅で、私も腰を下ろした。


「永倉さんの方が、物騒ですけど」


そう言うと、ふっと鼻で笑っている。


「そうやって軽口叩けるなら、大丈夫だな」


まさかと思うけど、私を心配して訪ねて来てくれたのだろうか?


なんで、私の自宅を知ってるの?と思ったけど、
あのお店で働いていた時、履歴書は出してないが、簡単な連絡先を記入したのと、身分証のコピーは取られていたな。


「あの上杉製菓の御曹司の入れ替わり、けっこう派手にテレビで流れていたな」

そう楽しそうに話されて、少し腹が立つ。


一時期、毎日のように蒼君の事がニュースになっていた。


私はそれが嫌で、テレビを一時期見ないようにしていた。


「人質のお前が、あの殺人犯の娘だってのは、テレビでは流れてなかったけど。
ネットでは、ちらほらとあるみたいだな」


そうなんだ。


私は被害者だから、テレビではそうやって流れないけど。


ネットでは、そうやって私の関係ない事迄言われるのか。


「永倉さん、一体私に何の用なんですか?」


さっきから、苛々とさせられる。


「俺は特にお前に用はねぇよ。
兄貴の使い」


「一枝さん?」


ふと、一枝さんは元気にしているのだろうか?と、少し懐かしくなった。

それより、それなら一枝さん本人が来てくれたらいいのに、と思う。

< 118 / 129 >

この作品をシェア

pagetop