trade
「うちの組のフロントで、金融の会社があってな。
その客の中の女に、ちょうどいいのが居た」
「ちょうどいいのが居た?」
一体、何の話?
「お前と入れ替わるのに決まってんだろ」
そう、呆れたように言われるけど。
「入れ替わるって…」
「坂上香苗(さかうえかなえ)26歳。
父親は端からいねえみたいで、母親も5年前に亡くなってる。
その母親が孤児みたいで、母親が亡くなった今は、その女天涯孤独の身だそうだ。
特に親しくしている知人や友人も居ないと、言ってた。
そいつ、色々な所で借金してて、うちもその一つなんだが。
まあ、自己破産しても、うちは死ぬ迄追いかけるつってて」
きっと、そのフロントだとかいう金融会社、闇金なんだろう。
「ただ、うちの借金をチャラにしてやる代わりに、お前と入れ替われって言ったら、喜んでそれをのんだ」
「えっと、入れ替われって。
その人と、なんで私が?」
「その女、色々な所に借金はあるけど、
身内に犯罪者はいねぇからな。
身内はその亡くなった母親だけだが」
普通なら、ピンと来ない話だけど。
蒼君が、上杉朱と入れ替わり、
人生が一変したのを見たからか。
それが、どんな事なのか分かる。
「けど、その人。
私は犯罪者の娘なのに?
その私と入れ替わるなんていいの?」
もしかしたら、それを永倉さんは話してないのではないだろうか。
「ああ。
向こうは犯罪者でも、その娘でも構わねぇ、と。
とりあえず、お前はパスポートの申請でもしろ。
どうせパスポートとか持ってねぇだろ?」
「まあ…」
ちょっと、失礼。
「そのお前のパスポートに、その女の写真貼りつける。
んで、海外に飛ばして。向こうで現地の男と偽装だが結婚させて、永住させる。
そいつには二度と日本に帰ってくんなって言ってる。
元々、その女向こうで暮らしたかったみたいだから、喜んでそれを受け入れた。
向こうに好きなアイドルが居るとかくだらねぇ理由で。
借金の大半も、そのアイドルに注ぎ込んだとか言ってたな」
その、向こうの国がどこかは分からないけど。
海外なら、私が犯罪者の娘だと知られて嫌な思いをする事はないだろう。