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「あ、そうだ。
その女の借金だが、うちも含め、全部兄貴が清算してる」


「一枝さんが?」


その坂上香苗さんがいくら借金していたのかは分からないが。


こんな話をのむくらいだから、よっぽどの金額かもしれない。



「そういうわけだから。
近いうちに、その女とお前を一度引き合わせる」


「あの、ちょっと待って下さい!
私、まだその話を了承してないです」


そう言うと、不機嫌そうに睨まれた。


「お前あれだろ?
お前の男がああやって目の前で撃たれて、
自分は人質だったって警察に証言したんだろ?
そうやって、てめえは犯罪者になりたくないんだろ?
なら、今回の話だって、願ったり叶ったりだろ?
犯罪者でも、犯罪者の娘でも無くなれんだ」


「…私がそう証言したのは…」


そう、口を開いたけど。


すぐに、口を閉じた。

一々、この人にそれを言っても意味がない。


私は、あの後。

何度も警察署で取り調べられた。


その度に、私は蒼君が殺人犯なのを知らなかった。


無理矢理、逃走に付き合わされていた、と話した。


あの時、あの若いお巡りさんが蒼君を撃ってくれなかったら、
私は殺されていた、と。


あの時、視界の端に映った、蒼君を撃ったお巡りさん。


人を撃った恐怖で、震えていた。


蒼君を撃ったお巡りさんだけど、
この人を犯罪者にしてはいけないと、私は必死だった。


だから、何度も、あの時お巡りさんは私を助けてくれたのだと、話した。


「知り合いの警察の奴に聞いたけど、
今回、警察のやつが撃って殺しちまったから。
お前の供述があやふやでも、なんとかお前は善良な人質だったって方向に持って行きたいみたいだな。
ラッキーだったな?」

永倉さんに言われて、ああ、やっぱりそうか、と思った。


私を取り調べた警察官達は、みんなそうやって私を誘導しているようだったから。


武田蒼は凶悪犯で、私は騙され無理矢理逃亡に付き合わされて、
最後は、私を殺そうとしたのだと。


「お前の男撃ったやつ、不起訴みたいだな」


あのお巡りさんがどうなったか迄は知らなかったので、
それに安堵した。

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