trade
少し迷ったけど、アフターの約束のお客さんに電話をして、
急に体調が悪くなったと、断りの電話を入れた。



その電話で、その人はとても不機嫌で。


多分、もうこの人はこの店に来ないだろうな、と思った。


もし、またこの店に来ても、私を二度と指名しない。


店のあるビルを出ると、すぐの所に黒塗りのベンツが停まっていた。


そのベンツの中に永倉さんが居て、
私を見て、乗れと言うように、顎をしゃくる。



「お疲れ様です…」


車に乗り込み、伺うようにこの人を見る。


「お前でいいから、ヤらせろ」


凄く、直球だな、と思う。


この人の誘いが、そのつもりなのだとは分かって来たけど。


それにしても、アヤノさんに断られて、スッゴク不機嫌なのが、この人から伝わって来る。


「腹減ってるか?
何か食いに行ってからでも構わねぇけど」


そう訊かれ、少しは私を気遣ってくれているのか、と意外に思う。


「お腹は空いてないです。
直接、ホテルでいいですよ?
なんなら、このまま車の中で始めてもいいですよ」

そう笑い、永倉さんを見ると。

少し、面食らったようで。


「じゃあ、適当なホテルに行くか」


そう、少し口角を上げて笑っている。

< 14 / 129 >

この作品をシェア

pagetop