trade

「まあ、そのままふうちゃんの言い方すると、
あの女抱かせてやるから、俺にロレックス買え、って」


そう言って、掴んでいた私の手に、指を絡めて来る。


そうか。


それで、永倉さんはあっさりと、こうやって私と一枝さんが会えるように、取り持ったのか。


ロレックス、ねぇ。



「うちの弟、本当にお金がかかるから。
こないだも、ベンツ買ってあげたばかりなのに」


そう笑う顔は、本当に弟である永倉さんが可愛いのだと、思わされた。


永倉さん、可愛いってキャラじゃないが、あのツンツンしてる感じが、兄のこの人からしたら、たまらないのだろうか?


にしても、この人、そんな居酒屋の経営だけで、弟にベンツ買ったり、こんないいマンションに住んだり…凄いな。


もしかして、借金とか?


いや、借金じゃなくても、ローンでも組んでいるのか。


「何、考えてるの?」


そう、クスリと笑っている。



「いえ、ただ、永倉さん、私に手を出して…。
そのまま、一枝さんに差し出すって、なんか酷くないです?」


その酷いは、私に対してなのか。


この人に対してなのか、分からないけど。


「ふうちゃん。
ああ見えて、けっこう人のものを欲しがる所あるから。
俺が紫織ちゃんをいいなって思ってるのを知って、
ふうちゃんも紫織ちゃんに興味が湧いたんだろうね」


「そうですか」


それで、永倉さんは急に私を誘ったのか。


アヤノさんの代わりだったけど。



「紫織ちゃん、ふうちゃんの虎見た?」


そう言われ、永倉さんの背にある、鮮やかな虎の刺青を思い出した。


「はい。痺れるくらい、格好良かった」


「ふうちゃんね、俺がタイガースのファンだと知っていて、
俺を喜ばせる為に、ああやって、虎を彫ったんだよね」


「え、そうなのですか?」


そう、訊くと、吹き出すように笑っている。


ああ、冗談なのか。

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