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「紫織ちゃん、クールに見えるのに。
けっこう、天然だね」
そういえば、永倉さん自身が言っていたな。
昔、兄弟でサーカスを見に行って、その時の虎が綺麗だったか、そんな感じの事を。
「昔、俺達兄弟でサーカス見に行って…。
あ、ふうちゃんの下にもう一人弟が居て、俺ら三人兄弟なんだけど」
同じ事を永倉さんにも聞いたけど、
話を邪魔しないように相槌を打つ。
「その時、うちの一番下の弟が、虎見て凄くはしゃいで。
そこから、一番下の弟のみー君、虎大好きで」
あれ?
虎が好きになったのは、永倉さんじゃなく、その、三男だと思われるみー君?
それとも、二人共、虎が好きなの?
「ふうちゃんがヤクザになってから、
ふうちゃんとみー君、ちょっと上手く行かなくなってね。
みー君の方が意地はって、ふうちゃんを避けてるって感じかな?
まあ、ふうちゃんも素直じゃないんだけど」
その辺りの事も、そういえば永倉さんから聞いたな。
昔は、弟と仲良かったけど、今はそうでもないと。
「そうやって、そんなみー君に好かれたくて、
みー君の好きな虎を背中に入れちゃうふうちゃん、可愛いと思わない?」
その話が本当なら、確かに永倉さん可愛いかもしれない。
そう思い、クスクス笑うと、そんな私を、一枝さんは見詰めて来る。
その眼差しは、とても熱っぽくて。
「あの…ハッキリさしていいですか?
その、一枝さんは、私の事…」
話の流れから、気に入ってはくれてるみたいだけど。
別に、私と付き合いたいとか、そんな真剣な思いじゃないよね?
もし、そうなら、なんか困るな。
「俺は紫織ちゃんの事、遊び」
そう、ハッキリと口にした。
「そうですよね。
ハッキリと言って貰えて良かったです。
ごめんなさい。変な事訊いて」
「そんな、露骨なくらい安心した顔しないでよ」
そう、笑っている。
相変わらず、私の手を握っていて。
私に本気じゃないのは分かったけど、
本当に、遊びなの?とも思ってしまう。
なんだか、この人、いまいち考えている事が分からなくて不気味で。
だから、必要以上に深く関わりたくないな、と警戒したような気持ちを持ってしまう。