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「スリッパないけど」


玄関の扉を開き、蒼君はぶっきらぼうにそう言う。


私に怒っているのか、呆れているのか、どちらともとれるその態度。



「お邪魔します」


靴を脱ぎ、先を歩く蒼君に付いて行き、リビングに入る。



蒼君の住んでいるこのマンションのリビングも、先程まで居た一枝さんのマンションのリビングと、負けず劣らず広い。


家具や電化製品も、高そうなものばかり。


「なに、ジロジロ見て物色してんの?
俺の事、強請にでも来た?」


「え、強請にって。
違うよ!」


そう否定すると、それを信じてくれたのかは分からないが、大きくため息を吐かれた。



「なんで、一枝さんも、未希に俺の家教えるかな」


そう、私の本当の名を呼ばれ、
この人が蒼君なのだと、さらに確信する。


「蒼君、私は蒼君の味方だから!
絶対に、あなたが蒼君だとか言わない」


その、支離滅裂な私の言葉。


蒼君には、意味が通じるだろう。



「一枝さんに、話してないの?
俺が上杉朱じゃないって」


「話してない…かな?」


どうだろう?


話してない事に、なるのかな?


そう考え、一枝さんではないけど、弟の永倉さんの方には、けっこう色々と話してしまったな、と思う。


それで、永倉さんが、本物の上杉朱を殺して、蒼君が入れ替わっているって、言っていて…。



「あの、蒼君?
あなたが蒼君なら、本物の上杉朱は何処に居るの?」


訊きながら、私を見返して来る蒼君の表情を見ていて、やっぱり、永倉さんの言う通りなのかな、と思ってしまった。



「とりあえず、座ったら?
面倒だから、お茶とかは出さないけど」


「あ、うん」


私がソファーに座ると、蒼君も私の横に腰を下ろした。


その距離が近くて、なんだか昔に戻ったみたいだと思って喜んでしまう。


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