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「蒼君…」
そう、伸ばした私の手は、払い除けられる。
「俺、言ったよな?
次、また俺に近付いたら殺すって?」
「うん。覚えているよ」
私は、この人に殺されるかもしれない覚悟で、此処に来た。
「俺が朱と入れ替わって、武田蒼という人間がこの世から居なくなったけど、
誰も探さない。
俺なんて居なくてもいい人間だったんだって、思ったよ。
未希だって、そうだったろ?
俺なんて居なくても」
「私は、蒼君が居なくていいなんて、思わなかったよ」
だけど、蒼君を探さなかった。
私以外の女性と何処かに消えたと思っていたから。
「は?本当かよ?
けど、もうそんな事どうでもいい。
未希、俺はお前を殺す。
お前だって、きっと、居なくなっても誰も本気で探して貰えない…。
俺とお前は、そうなんだよ。
上杉朱とは、違う」
蒼君の二つの手が、私の首を掴む。
そのまま締め付けられ、ソファーに押し倒された。
私は、目を閉じた。
痛くて、息が出来なくて苦しい…。
ふと、蒼君のその手から力が抜けた。
「―――なんで、抵抗しないんだよ?」
「蒼君を、これ以上困らせたくないから」
蒼君が私を殺したいなら、大人しく殺されようと思った。
「矛盾してないか?
俺の事困らせたくないなら、俺の前に現れるなよ」
そう、私を見下ろす目は、今にも泣きそうに潤んでいる。
「―――蒼君に、ずっと会いたかった。
今も私は蒼君が、大好きだから」
「俺は、もう蒼じゃない。
だから、好きだとか言うなよ」
私は溢れそうになる言葉が出ないように、口を閉じた。
何度も、蒼君が好きだと、言ってしまいそうで。