trade

逮捕された父親に下った判決は、死刑で。


まだその刑は執行されていないけど、
今も身柄はT県の拘置所に収容されている。


私は一度も、そんな父親の面会に行く事もなく、
裁判だって見に行く事もなかった。


だから、父親に最後に会ったのは、
その事件が起こる、朝。


いつものように、父親は私よりも早く家を出て行って。


その朝、私は父親と何か言葉を交わしたかな?


覚えて、なくて。


それくらい、あの日も、いつもと変わらない、日常だった。



父親がそうやって、世間を騒がせるような殺人事件を起こして、
親戚は誰も私を引き取ろうとはしてくれなかった。


父方の祖父母は鬼籍だけど、
母方の祖父母は、そんな殺人犯の父親の血を引いてる私を、怖がっていた。

他の親戚は、これ以上関わりたくない、と言った感じで。


私は兄弟も居ない一人っ子で、そんな形で私の前から両親は居なくなり、
沢山居た友達だって、その事件のせいで私から離れて行った。


本当に、私はこの世の中でひとりぼっちになった。


そうして、役所の人に連れて来られた児童養護施設で、蒼君と出会った。

< 40 / 129 >

この作品をシェア

pagetop