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「その、自暴自棄になってるような目が気に入らねぇな?」


そう言って、永倉さんは煙草を灰皿に押し付けて消していた。


その右手に気を取られていたが、
左の手首に嵌まっている、腕時計。


この前の時計とは、違う。



"ーーあの女抱かせてやるから、俺にロレックス買え、ってーー"



「素敵な、時計ですね。
お兄さんからのプレゼントですか?」


嫌味を込めてそう言った私に、
永倉さんは鼻で笑う。




「お前のお陰で、いい金蔓が出来たからな」


そう、左手を上げてその腕時計を見ている。


その腕時計は、一枝さんから聞いていたように、ロレックスに見えるけど。


なんだか、胸がザワザワとした。



「上杉製菓の御曹司、か。
お前、俺なんかにべらべらと喋り過ぎなんだよ」


そう言われて、全身からスーと体温が下がる。



私、この人に、話してしまった。


上杉朱と名乗る人物が、実は蒼君なのだと。


そして、この人が言ったように、蒼君は本物の上杉朱を殺して、入れ替わっていた。



それをネタに、永倉さんは蒼君を強請でもしたのだろうか?


「―――蒼君に、何したの?」


そう訊く私の声が、震えた。



「覚えてねぇな」


そう、鼻で笑われて、その瞬間、自分の中で理性が吹っ飛んだ。



「ふざけないでよ!
蒼君に何かしたら、許さない!」


私は永倉さんに近付き、ワイシャツの襟首を掴み、詰め寄った。


その瞬間、強い力で両肩を掴まれ、
そのままソファーに押し倒された。


そのまま下腹部辺りに乗られ、身動きが取れないのもそうだけど、息をするのも苦しい。


「ちょっと、どいてよ!」


そう叫ぶ私を、冷たい目で見下ろしている。



「佐伯、ちょっと外せ」


永倉さんがそう言うと、佐伯店長はスタッフルームから出て行った。

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