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「一枝さんは、優しかった」


それは、その行為中の事だけじゃなく、
私に接する態度や掛ける言葉全てが。


「俺は、この世の中に怖くて逆らえない人間が二人居るけど。
一人は親父で、もう一人が兄貴だ」


永倉さんは衣服を整え、直ぐに煙草に手を伸ばし、それを咥えた。


「え、兄貴って、一枝さん?」


この人が、兄である一枝さんを怖がっていたようには見えなかったけど。


前に、このスタッフルームで居合わせた時も、
私を引き合わせたファミレスでも。


けど、この人をふうちゃんなんて愛称で呼んでる事を一枝さんは
許されているという事は、そういう事なのか。


「兄貴は昔から、すっげぇ怖かったな。
まぁ、俺ら弟に対しては、怒る事ねぇけど。
そういや、昔、兄貴が付き合ってた女が自殺した事あったけど、
本当の所は、兄貴が殺したんじゃないかって俺は思ってる」


火を点けた煙草を吸い、大きく煙を吐いている。


以前、一枝さんから昔付き合ってた彼女が、一枝さんと別れて自殺したとは聞いたけど。


永倉さんは、一枝さんが殺したと思っているって…。


「一枝さんが、本当に殺したんですか?」


「さぁ。ただ、兄貴ならそれくらい遣りかねないってだけだ」


なに、それ?

ただの、憶測?


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