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「本当、お前いい加減にしよろ!
なんで、未希はそうやって俺の邪魔すんだよ!
俺は、誰がなんて言おうと、今は上杉朱なんだよ!もう、蒼の頃の俺に戻りたくない!」
その声は憤っているけど、泣いてるようにも聞こえる。
「武田蒼の頃の蒼君は、そんなに不幸だった?」
私が知っている蒼君は、よく笑っていた。
出会う前の事は知らないけど、そんなに不幸には見えなかった。
「朱と入れ替わる迄は、分からなかった。
家柄が良くて金があるって、どれだけ素晴らしい事なのか、って。
世の中、本当に金だよ、金」
「お金…」
「服だって車だって、なんでも欲しい物買えて。
そうやって金持って俺が御曹司になったら、女の態度も、ころっと変わって。
元々、女にはモテてたけど、前まではどっかで、こいつは施設とかに居るような奴だから、って、俺に寄って来る女達は俺の足元見てるような所あったけど。
今は、上杉製菓の御曹司で、高嶺の花だと思われてて、気安く女も寄って来なくなった。
そうして俺の周りに居るのは、レベルの高い女ばかりになって、そいつらを片っ端から抱いてやった」
そう、笑う蒼君の顔は、
本当にこの人は変わってしまったのだと、思わされた。
「もう、私の好きだった蒼君は、居ないんだね」
こんな蒼君の姿を見るくらいなら、
また再会しなければ良かった。
蒼君との事は、綺麗な思い出のままにしておけば、良かった。
「でも、あれだよな?
未希、お前いい女になったよな?
今の俺は、お前と付き合うのは無理だけど、愛人くらいにならしてやろうか?」
蒼君は、私の頬を撫でるように触る。
馬鹿にされているのに、その手を振り払えないのは、やはり私はこの人が好きなのだろう。