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◇
「ちょっと、久しぶりかな?」
そう言って、一枝さんは玄関の扉を開けてくれた。
私は、好きな蒼君の誘いを断り、この人に会いに来た。
蒼君には、先約があるから今夜は行けないとLINEを返すと、
既読になるが、特に返信はなかった。
自分でも、何故、蒼君じゃなくてこの人の方を選んだのか、不思議。
靴を脱ぐと、一枝さんは私の手を握り、リビングへと連れて行く。
その道中、
「あ、そうそう。ふうちゃんに聞いたけど、紫織ちゃん、あのお店辞めたんでしょ?」
一枝さんは思い出したように言った。
「辞めたんじゃなくて、辞めさせられたんですよ。
あなたの弟に」
「そうか。
多分、俺のせいだろうね。
俺がふうちゃんに色々紫織ちゃんの様子とか訊いたりしてたから、面倒臭くなったんだろうね」
それを聞いて、永倉さんの言っていた事は本当だったのか、と思う。
一枝さんが、私の事を気にしていると。
なら、永倉さんが言うように、本当にこの人は私を気に入っているのだろうか。
リビングに入り、半月振りだけど、
この場所が懐かしいような気持ちになった。
前回、此処に来た時、蒼君の住所を聞いた後も、リビングのソファーに二人で座って、1本の映画を観た。
その最中、何度も一枝さんとキスをした。
その時は、その前に抱かれているからかキスだけだったけど。
今夜は、また一枝さんに抱かれるのだろうな。
そんな事を考えていると、後ろから抱きしめられた。
前回もこの人にそうやって背後から抱きしめられて、
包み込まれているみたいで、安心した。
今も、安心する。
「一枝さん、なんでずっと連絡くれなかったんですか?」
ちょっと、気になってしまった。
私の事を気に入ってるわりに、半月も何の音沙汰もなかったから。
「仕事が忙しかったのもそうだけど。
あの後、紫織ちゃんと朱君とどうなったのか分からないし。
連絡していいのかな?って」
蒼君から、そこまで詳しい話は聞いていないのだな。
私に、何故住所を教えたのかと、蒼君が一枝さんに訊いたような事を、蒼君が言っていたけど。