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一枝さんは、目玉焼きと野菜がたっぷりと入ったお味噌汁を用意してくれた。


それに、炊きたてのご飯。


朝からこうやってちゃんと食べるのは、久しぶりだな、と思った。


施設に居た時は当たり前に食べていた朝食だけど、
一人暮らしになると、菓子パンで済ませるか、食べないかで。


そういえば、こっちに来てから少し付き合ってた人が、
今の一枝さんのように、私の住む部屋に泊まりに来た翌日は、こうやって朝食を用意してくれたっけ。


私が料理が得意じゃないからな。



「一枝さん。
あの、お願いがあるんです」


夕べ、蒼君じゃなくて、この人の方を選んだのは、そのお願いをしたいのもあって。


「俺にお願い?なに?」


「もし、永倉さんが、蒼君に何かしたら…。
具体的に言うと、永倉さんに私、蒼君の誰にも知られたくない事を話してしまって。
それで、永倉さんが蒼君をゆすってお金を取ろうとしたりするかもしれなくて。
だから、そうならないように、永倉さんを止めて下さい!」


もしかしたら、永倉さんから一枝さんは、蒼君の入れ替わりの事を、聞いているかもしれないけど。


ぼんやりとぼかして、そう伝える。


そして、永倉さんを止めれるのは、
永倉さんが逆らえないと言っていた、この人が適任。


「えー、それ、面倒だな」


お味噌汁の椀をテーブルに置いて、私に向ける目は、笑っているけど。



「もしも、ですよ。
永倉さん、蒼君にそんな事しないかもしれないですし」


「いや。ふうちゃんは、そんな事するよ。
あの人、ヤクザだよ」


そう、笑って返される。


私が困って、一枝さんを見ていると、
相変わらず笑顔で。

ちょっと、それに腹が立って来る。


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