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「じゃあ、紫織ちゃんがもう二度と朱君とは会わないって言うんだったら、
そのお願い聞いてあげる」


「え、それは…」


「その紫織ちゃんのお願いへの、見返り?
俺達の関係って、そうやってギブアンドテイクから始まってるから。
今回、それ聞いてあげるから、紫織ちゃんはもう朱君…、いや、蒼君に会わないでよ」


「え、なんでですか?
何故、私が蒼君と会ったらダメなんですか?」



「え、それ、言わせるの?」


そう、見詰められ。


その意味は、分かったけど。


けど。


「でも、一枝さん、私に遊びですよね?」


だから、蒼君に嫉妬して、会わせたくないとか、ないだろう。



「本気になっていいなら、なるけど。
って、そう言う時点で、けっこう本気だって事だよね」


そう、笑っているけど。


その言葉は、冗談には聞こえない。



「私、夕べ、蒼君からも誘われていて。
だけど、蒼君を断って、私は此処に来ました」


「あ、それは嬉しいな」


「それは…。
私は一枝さんと違って、愛されるより、愛する事にもう疲れて。
実際、一枝さんがどの程度私を思ってくれてるのかは分からないですけど。
ただ、優しい言葉を掛けてくれて居心地の良いあなたを、蒼君よりも選びました。
でも、私は…一枝さんより、蒼君が好きで。
昨日は此処に来たけど、蒼君にもう会えないのは、嫌です」


「そう。
それならそれで構わないよ。
ただ、ふうちゃんが朱君に何しようと、俺には関係ないだけで…。
あ、別にそれで脅してるわけじゃないよ!」


「あ、はい」


「ただ、何の見返りもなく、なんで俺が、って思っただけ」


一枝さん優しいから、きっと断られる事なんてないと思って、お願いしたけど。


一枝さんの言うように、なんで、って感じだよな。


「でも、朱君とは友達だから。
朱君自身が、ふうちゃんに脅されて困ってるから助けてくれ、って言って来たなら。
その時は、ふうちゃんを止めてあげるけど」


やはり、この人は優しいのだろうな。

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