trade
「一枝さんが、何者なのかは分からないけど。
こんな高そうなマンションに住んでたり、弟に高い腕時計を買ったり。
きっと、とても凄い人なのだと思います」


この人が経営しているとかいう居酒屋。


私が思っているより、きっと大きくて、もしかしたら、数店舗あったりするのかもしれない。


「凄い、か。
まあ、俺、凄いのかも。
けっこう頑張って来たから」


そう、さらっと言う感じとか、
けっこうこの人好きだな、と思い笑みが出る。


「だから、私はあなたの側に居ない方がいい。
私の父親は、殺人者です」


そう言うと、一枝さんから笑みが消え、真剣に私を見て来る。



「一枝さんとの関係が、ただの遊びなら、特に話す必要はない事だと思います。
だから、このまま遊びの関係ならば、今私が言った事は忘れてくれたらいいし。
あ、でも、凄い人なら、遊ぶ女でも、そうやって後ろ暗い所あると困りますよね?」

それは、現在上杉製菓御曹司の蒼君もそうだけど。


蒼君と私の関係は、人目を憚りこそこそとしたものだから、いいのかもしれないけど。


「んー、まあ、殺人者や殺人者の家族に対する世間の風当たりは、強いだろうね。
多分、俺が殺人者の娘である紫織ちゃんと結婚したら…。
まあ、その結婚に反対する人は沢山居るし、困る人間も居る。
関わってるだけでも、よく思わない人間も俺の周りにはいるだろうね」


「ですよね。
私、過去に何人か男性と付き合った事はあるんですけど。
その事を知って、私から離れて行く人。
その事を知らないまま、別れた人も居ますけど。
ただ、その事を知って、私と付き合っていた男性は居なかった」

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