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「永倉さんが言ってて。
一枝さんからは、昔の彼女は別れを苦に自殺したと聞いていたけど。
でも、永倉さんは、その彼女は本当は一枝さんが殺したんじゃないかって言っていて。
もし、そうならって、私考えたのですが。
その彼女の気持ちが、一枝さんは重くてそれでかなって…」


なんだか、永倉さんがそう言っていたからと、話しながらも。

今、本当にそうなんじゃないか、と思ってしまった。


今、私の話を聞いてる一枝さんは、いつものように、微塵も笑っていない。


「まあ、俺が殺したみたいな感じだけど」


「それは…」


て事は、この人が本当に殺したわけではないって事かな?


「彼女ね、俺の目の前で死んだんだ。
前に紫織ちゃんには、自殺したとしか話さなかったけど。
別れてから、暫くしてね、
夜に、とあるビルの屋上に彼女から呼び出されて。
そこで、別れたくない、って言われた。
別れるのを撤回してくれないなら、ここから飛び降りて死ぬから、って」


そこで、何かを思い出すように、一枝さんは一度目を閉じた。


そして、言うか言わないかの躊躇いを払うように、目を開いた。


「じゃあ、死ねよ、って」


そう、言ったんだ…。



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