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「昔と違って、今の俺はちょっとくらいの障害ならものともしない、力があるから。
実家がそっち系だから、暴力的な事もそうだけど。
お金も、凄い持ってて。
人脈だって、色々。
だから、紫織ちゃんの父親が、って事くらいの障害なら、ちょっと頑張れば乗り越えられる」


ちょっと頑張ればって…。


この人が何者なのかまだ分からないけど。


そんな簡単じゃない。


「俺の事、信用してない?」


信用してないとか、ではないけど。



「私の父親の事を知って、さらに私に近付こうとする人は、一枝さんだけで。
それに、戸惑ってます」


いや、昔の蒼君もそうだった。


私の父親の事を知っても、私と仲良くしてくれた。


「とりあえず、朱君とはもう会わないで?」


先程は、それに頷けなかったけど。


今の私は、それに頷いてしまった。


一枝さんは、リビングにあるテーブルへと歩いて行くと、
そこに置いていた、自分のスマホを手に取った。


そして、誰かに電話を掛けている。


「あ、朱君朝からごめんね」



蒼君に、電話してるの?



「今、紫織ちゃんと一緒に居て…。
そう。未希ちゃんと。
単刀直入に言うと、俺、紫織ちゃんにけっこう本気でね。
今、彼女が朱君の愛人してるとか聞いたから。
一応、朱君に言っておこうと思って。
もう、紫織ちゃんに連絡しないで?」


それを聞きながら、私は一枝さんの方へと近付いて行く。


「あ、うん。
本人に代わる」


そう言って、スマホを渡された。



『未希、一枝さんの言ってる事、本当?』


その声は、蒼君。


「うん…」



『一枝さん、本当に未希に本気なの?』


「多分…」


『…そう。良かったな?
一枝さんに、もう俺から未希に連絡しないって言ってて。
じゃあ、もう切るから』


そう言って、私の返事を待たずに通話は切れた。


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