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「インターホン?」


そうなのかな?と、尋ねるように口にする。


「うん。ま、無視でいいよ」


「うん…」


一枝さんがそう言うなら、それでいいのかもしれないけど。



暫くすると、また呼び出し音が鳴っている。


それが鳴り止んでも、また。

そして、同じように何度も。


「あの、一枝さん、本当に無視でいいのですか?」


こんなにも、何度も。


普通なら、まだ、二度目迄なら分かるけど、
それで応答なければ、諦めるだろう。


かれこれ、もう10回以上は鳴っている。


「そうだね。
きっと、出る迄諦めないだろうね?
相手は、俺達がこのマンションに居るのを知ってるわけだし」


え、このチャイムの相手を、一枝さんは分かっているの?


それって…いや、まさか。



「紫織ちゃんが思ってる相手だと思うよ」


「蒼…君?」


私の頭に浮かんだのは、そう。


「俺、宅配とか届け先はいつも職場にしてるから。
今まで、この部屋にこうやって訪ねて来たのは、朱君しかいないから」


まさか、本当に蒼君が?


「いつまでもこうやって鳴らされるのも落ち着かないし。
俺、ちょっと出て来る。
多分、朱君をこの部屋に招き入れる事になると思うから、紫織ちゃん着替えておいて」


一枝さんはベッドから出ると、床に落ちていたボクサーパンツを履き、
脱ぎ捨てていた衣服を手に持ち、
寝室から出て行った。


もし、本当に蒼君が来たのだとしたら、
なんで?


「とりあえず、私も着替えないと」


私もベッドから出て、急いで衣服を身に纏った。


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