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リビングに私が行き、暫くして、
一枝さんと蒼君もリビングへと入って来た。
来客はきっと蒼君だろうと、一枝さんから聞いていても。
その姿を見て、驚いてしまう。
何故、蒼君がここに?と、私は期待している。
私と一枝さんとの関係に、蒼君が妬いてくれているのかな?と。
「どうする?ソファーに座って話す?」
そう初めに口を開いたのは一枝さんで。
私と蒼君に、そう尋ねている。
「いえ。すぐに終わるので、このままで」
蒼君がそう言うので、私もそれで構わないと、頷いた。
三人で、点を繋げば三角になるように、リビングで突っ立っていて。
私は、一枝さんから、その横に居る蒼君に目を向けた。
蒼君は、私じゃなくて、一枝さんを見ている。
「一枝さん。未希を俺に返して下さい」
そう、口にした。
それを聞いて、私は驚いて、一枝さんと蒼君の顔を交互に見てしまう。
「なに?急に。
他の男に取られるとなったら、急に惜しくなった?」
そう言う一枝さん、顔は笑っているけど、
その纏う空気が少しピリピリとしている。
「―――はい。
自分勝手なのは分かってますけど、そうです。
未希が一枝さんと、と思うと、居ても立っても居られなくて…。
自分でも、なんで、って思うのに」
そう口にする蒼君は、どこか苦しそうで。
今も、心に迷いがあるのだろう。
何故、私を追っているのか、と。
「悪いけど。
俺は、この子に本気だから。
今さら朱君にそう言われて、分かったって簡単に引き下がる気はないな」
そう、一枝さんは私をチラリと見ると、蒼君に目を向けた。
「一枝さんなら、別に未希じゃなくても…。
あなたなら、もっと未希よりも相応しい相手が居るでしょ?
それに…、未希の父親は殺人犯ですよ」
「朱君。けっこう、最悪だね?」
蒼君にそう言ったのは、一枝さんだけど。
私も蒼君に対して、同じような事を思ってしまった。