trade
「彼女の父親の事は、もう本人から聞いたよ」
一枝さんがそう言うと、蒼君は私の方に目を向けた。
「一枝さんに、全部話した。
それでも、私をって」
そう自分で口にしてみて、
私にとって、一枝さん以上の男性は居ないような気がする。
後にも先にも、私の全てを受け止めてくれるのは、この人だけかもしれない。
「朱君。
本気でこの子の事を取り返したいなら、
もっと、なりふり構わず来ないと。
自らの身を切るくらい」
その一枝さんの言葉に、蒼君は決意を固めたように、息を吐いた。
「一枝さんには、未希の事は、
昔、ちょっと遊んで捨てた女だって話しましたけど。
この前も、ああやって家迄来られて困ったって…」
蒼君、一枝さんにはそう話したんだ。
そんな女に、自宅の住所を勝手に教えられて困ったとか、かな。
「でも、もう未希から聞いて知ってますよね?
俺は、昔、未希と同じ児童養護施設に居て。
本当は、上杉朱なんて人間じゃなくて、武田蒼で。
俺は、双子の兄の朱を殺して、入れ替わった」
「知ってるけど。
でも、それを俺に話したのは、彼女じゃなくて、俺の弟なんだ」
永倉さんが?
もしかしたら、永倉さんから聞いてるかも、とは少し思ってたけど。
だから、一枝さんは全く蒼君の事を私に訊いて来なかったのか。
「弟…。
確かに、未希が言ってました。
一枝さんの弟に俺の事話してしまって。
だから、それで強請られるかもしれないって」
「心配しなくても、弟はそんな事しないよ。
だって、わざわざ俺に忠告して来たんだよ。
"友達はちゃんと選べ"って。
朱君に、関わるなって意味」
永倉さんが、一枝さんに?
蒼君と、関わるな、って。
「そうですか。
確かに、その弟さんが俺に関わって来たら、
俺は一枝さんに、それを辞めさせて欲しいとか相談したりするかもしれない。
弟さんとしては、俺みたいな殺人犯と兄がこれ以上関わるのが、心配だって事か」
あの永倉さんが、兄である一枝さんをそうやって心配してって、なんか意外だけど。
とりあえず、永倉さんが蒼君に何かする事は無さそうで、安心した。
一枝さんがそう言うと、蒼君は私の方に目を向けた。
「一枝さんに、全部話した。
それでも、私をって」
そう自分で口にしてみて、
私にとって、一枝さん以上の男性は居ないような気がする。
後にも先にも、私の全てを受け止めてくれるのは、この人だけかもしれない。
「朱君。
本気でこの子の事を取り返したいなら、
もっと、なりふり構わず来ないと。
自らの身を切るくらい」
その一枝さんの言葉に、蒼君は決意を固めたように、息を吐いた。
「一枝さんには、未希の事は、
昔、ちょっと遊んで捨てた女だって話しましたけど。
この前も、ああやって家迄来られて困ったって…」
蒼君、一枝さんにはそう話したんだ。
そんな女に、自宅の住所を勝手に教えられて困ったとか、かな。
「でも、もう未希から聞いて知ってますよね?
俺は、昔、未希と同じ児童養護施設に居て。
本当は、上杉朱なんて人間じゃなくて、武田蒼で。
俺は、双子の兄の朱を殺して、入れ替わった」
「知ってるけど。
でも、それを俺に話したのは、彼女じゃなくて、俺の弟なんだ」
永倉さんが?
もしかしたら、永倉さんから聞いてるかも、とは少し思ってたけど。
だから、一枝さんは全く蒼君の事を私に訊いて来なかったのか。
「弟…。
確かに、未希が言ってました。
一枝さんの弟に俺の事話してしまって。
だから、それで強請られるかもしれないって」
「心配しなくても、弟はそんな事しないよ。
だって、わざわざ俺に忠告して来たんだよ。
"友達はちゃんと選べ"って。
朱君に、関わるなって意味」
永倉さんが、一枝さんに?
蒼君と、関わるな、って。
「そうですか。
確かに、その弟さんが俺に関わって来たら、
俺は一枝さんに、それを辞めさせて欲しいとか相談したりするかもしれない。
弟さんとしては、俺みたいな殺人犯と兄がこれ以上関わるのが、心配だって事か」
あの永倉さんが、兄である一枝さんをそうやって心配してって、なんか意外だけど。
とりあえず、永倉さんが蒼君に何かする事は無さそうで、安心した。