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「だから、紫織ちゃん、ごめんね。
それ、黙ってて」
そういえば、そうか。
永倉さんがもし蒼君を強請る事があれば、一枝さんに助けて欲しいとお願いした。
"ーーじゃあ、紫織ちゃんがもう二度と朱君とは会わないって言うんだったら、
そのお願い聞いてあげるーー"
そう、選択を迫られた。
「なら、俺がそうなら。
未希とも関わらない方がいいのではないですか?
未希は本人じゃなくて、父親が、だけど。
弟さん、また心配しますよ?」
私の父親が殺人犯なんて永倉さんが知ったら、
あの人、私を一枝さんから引き離すのだろうか?
「今のままなら、うちの弟もそうだけど、色々な人間が、俺にこの女は辞めておけ、って言うだろうね。
だから、俺、とっておきの方法思い付いて!
彼女を、救ってあげれる方法。
俺なら紫織ちゃんを幸せにしてあげられる」
そう、一枝さんは私に笑い掛けてくれた。
私を、救う方法?
「それは、無理でしょう?
例えば、もし未希が誰かの養子に入ったりして、名字が変わっても、いつまでも隠せない。
そんなの、調べられたらすぐに分かる。
どこから、未希の父親の事が周りに知られるか分からない!」
そう言うのは、蒼君。
「その方法が思い付かない朱君には、
紫織ちゃんを幸せにするのは、無理だよね?
その、紫織ちゃんを養子にどうとかも、蒼君自身が考えて却下した案なんでしょ?
現在、上杉製菓の御曹司の君も、殺人犯の娘と結婚とか無理なんじゃないの?」
そう言われ、蒼君は悔しそうにギュッと口を結んでいる。
でも、再び口を開いた。
「…確かに、未希と結婚とか、無理だけど。
俺は、一生誰とも結婚しない。
そして、ずっと側に未希を置いておく。
婚約者とも、ちゃんと別れて…。
今でも、未希が好きなんです…。
忘れたはずなのに、またこうして俺の前に現れて…。
未希を、俺に返して下さい」
そう言葉にする蒼君は、今にも泣き出しそうで。
言葉だけじゃなく、その思いが私に伝わって来る。
「さっきからそうだけど、返す、返さないも、ものじゃないんだから。
決めるのは、俺じゃない」
一枝さんはそう言って、私に視線を向けた。
そして、私を許すように笑ってくれている。