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「この条件で、俺よりも朱君を選ぶなんて、本当に馬鹿な子だな、って思うけど。
でも、それが好きになるって事なんだろうね?」


その一枝さんの言葉に、躊躇いながらも頷いた。



一枝さんはどうするのかは分からないけど、
私を殺人犯の娘だという現実から救って幸せにしてくれると迄、言ってくれた。


それに引き換え、蒼君を選んでも、未来に光がないような気がするのに。



「一枝さん。ごめんなさい」


私は、蒼君の方へと歩いて行く。


目の前に来た私を、蒼君は強い力でギュッと抱き締めてくれた。


「未希。ごめんな。
俺、お前に酷い事ばっかり言って。
どうしても、お前が好きなんだよ」


その声を聞いていて、蒼君は本当に迷って此処に来てくれたのだろう、と思った。

今の私がそうであったように、お互い遠ざけた方が良いと思う相手なのに。


私は一枝さんよりも、この人を選び。


蒼君は、誰にも知られたくない過去を知る私を、危険だと分かっていても、手離す事が出来ずに側に置く。


「そういう事は、二人になってからにしてよ」


その一枝さんの言葉で、私達は身を離した。


「一枝さん。本当に、すみません」


そういう蒼君に、一枝さんはクスリと笑う。



「俺は心が広いから、紫織ちゃん、いつでも戻って来てもいいよ」


その一枝さんの言葉は、きっと、そうなるだろう、と言われているみたいで。


怖いな、と少し思ってしまった。


「未希、行こう」


蒼君も私と同じ事を思ったのか、
少し強引に私の手を引っ張り、リビングから出ようとする。



私は一枝さんから目を逸らして、
自分の意思が揺るがないように、前を見て歩いた。


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