trade
一枝さんの住むマンションから出ると、蒼君の方から、私の手を繋いできた。


なんだか、昔の蒼君だ、と懐かしいような、なんとも言えない愛おしさが湧いて来る。


「未希、今は一人暮らし?」


「え、うん。
蒼君みたいに、高校卒業後私も施設を出てから一人暮らし」


なんで、そんな事を訊くのだろう?


「一人で住んでるなら、暫く家を空けても、問題ないよな。
同棲…と迄はいかないけど、荷物持って、暫く俺の部屋に来いよ」


「あ、うん…」


それって、半同棲。


「じゃあ、一緒に未希の家行って、荷物取りに行こう」


「うん」


それに、笑顔で頷いた。




一枝さんの住む場所から、タクシーで私の住むワンルームマンションへと向かう。


電車でって言う私に、代金は俺が払うからと蒼君が言うので、タクシーになった。


なんだか、私が気にしすぎなのだろうけど、そうやって金銭感覚でも、昔とは違う蒼君の一面を見ると、
なんとも言えない不安が胸に広がる。


再会して色々と変わってしまった蒼君に、冷たくされた事は、自分の中にトラウマみたいになっていて。


今、こうやって昔みたいに私を必要としてくれているけど。


また、いつ、私はこの人に捨てられるんじゃないかって。

< 79 / 129 >

この作品をシェア

pagetop