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「うわ、この辺り懐かしいな。
あっこ、コンビニ出来てる」


タクシーを降りて、私の住むワンルームマンションの前、蒼君と二人で立つ。

蒼君は、楽しそうにキョロキョロとしている。


現在、私が住んでる場所は、蒼君が高校卒業後働いていた工場と、目と鼻の先の距離。


「蒼君、ここで待ってて!
すぐに荷物纏めて来るから」


そう言う私に、蒼君は、え、と声を漏らした後、合点が行ったように笑い出した。


「相変わらず、未希は部屋散らかってるの?」


それに、う、と言葉に詰まる。


今現在、私の部屋は人に見られたくないくらいに、散らかっている。


ただ、ゴミとかはちゃんと捨ててたり、ホコリとかはないようにしてるけど、
昔から、物の片付けが苦手、ってか、しない。


使ったら、使いぱなしで、しまわない。


昔、児童養護施設に居た時は、相部屋の子達が部屋自体は片付けてくれていたけど、
私のベッドの上や勉強机は、私物で溢れていた。


「未希は、変わってないな」


そう、蒼君は笑っていて、
そんな表情は蒼君も昔のまま。


「蒼君の部屋は、昔から凄く綺麗だよね?」



施設での蒼君の勉強机の、整理整頓されていたのを思い出した。



そして、最近見たあの蒼君の住む、マンションの部屋の中。


「俺らの父親、よく物を投げて来るんだ。
そこら辺の物を、俺や朱に向かって投げて来て。
俺じゃないけど、朱は顔に大きなガラスの灰皿投げつけられて、歯が折れたりもあった。
だから、俺ら、それで物を極力部屋に置かないように、片付けるのが身に付いたのかもな」


昔に、ほんの少し蒼君からはそうやって父親から受けていた虐待の話を聞く事はあったけど。


昔は私もまだまだ幼かったから、その話を聞きながら、蒼君の父親に対して恐怖を感じたけど。


大人になった今は、その理不尽さに憤りや憎しみを感じる。


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